鉄道通勤ストレスの定量的計測に関する研究(中央大学博士論文)を読んで

テレワークと満員電車のストレスの関係性を研究していますが、満員電車というより電車によるストレスはどんなものなのか、人間の心身に大きな影響があるのではないかと思い”鉄道ストレス”というものに目を向けたところこちらの論文が出てきました。

中央大学博士論文

「鉄道通勤ストレスの定量的計測に関する研究 - 心拍変動解析の手法を応用したアプローチ - 」

を読みました。

 

まちがいなく満員電車に乗ったとき気分がいいことは130%ないので、この論文を使ってそれを証明できるのではないかとの仮説を立ててみました。

 

 

ではここから本題で簡単に内容をまとめてみます。

 

1章 序

目的

1.鉄道インフラ整備のパラダイムシフトの必要性

 

首都圏の交通インフラ整備は制約が大きくなってきており、人口動態の変化による影響を考えれば、新しくハードの拡充を進めていくよりも、ソフトの拡充により既存のインフラを効果的に活用していくことに軸を移していく必要があるのではないか。

まずハードとソフトとは??

ビジネスにおけるハードとは施設や設備、機器、道具など形ある要素のこと。

ソフトとは人材や意識、情報といった無形の要素のこと。

鉄道におけるハードとはその名の通り線路を増やしたり、電車の数を増やしたりといった大掛かりなことでソフトは乗り換え用のアプリや運賃価格を変動させたりということでしょうか。ソフトの方が設備投資のコストや負担が低いイメージがあります。

テレワークはおそらくソフトの要素が強いと思います。

 

日本の交通インフラの整備水準は高水準である。しかし、このような膨大な通勤交通ニーズに対応するためインフラ整備が続けられた結果、首都圏の地下鉄の敷設深度は深まり、物理的・コスト的な制約が大きくなっている。

たしかに日本、特に首都圏は便利になりすぎている。電車でいけないところなんてなく自家用車はほとんどの人が不要である。田舎はないとかなり不便だが。地下鉄も多すぎてどんなに下らなきゃいけないんだよってレベルまでエスカレーターで下がらなくてはけなくなる駅もある。

今後低成長経済や少子高齢化により需要の大きな伸びが予想されないことが考えられるので、これ以上新規にハードの拡充を進めるよりもソフトの拡充により既存のインフラを効果的に活用していくことが必要である。

少子高齢化は田舎だけでなく、都市部でも将来的にやってくるであろう。これから日本は人口が減っていくのにこれ以上ハード面で政策を打つのはリスクを伴う。ということは将来的には満員電車は解放されるということにもなりうる?

さらに、高齢者雇用や職場における多様性の進展により、経済活動を支える通勤交通において高齢者や女性などの所謂弱者の比率がますます増加していくことが予想される。

このような人口動態や政策の変化に対応するためには、利用者への負荷を低減するようなソフト面の施策が求められることになるだろう。利用者が被る様々な肉体的・精神的負荷を定量的に提示する指標を開発する必要がある。

 これはかなりポイントであり、人生100年時代、高齢者の雇用範囲は増えることは明らかで、女性の雇用拡大はあきらかである。女性や高齢者があの満員電車に乗って通勤することは危険で、大きな負担があります。

 

2.移動経路全体として利用者が被るストレスを示す指標の欠如

鉄道の需要サイドである利用者は移動経路のトータルとして移動に伴う様々なストレスは利用料金や機会費用など経済的な負担のみならず、肉体的・精神的な負荷など様々なものがあり、総合的に勘案しながら移動ルートや移動手段、移動のタイミング等の選択を行う。

私も就活のとき毎日のように東京に通っていたがいかに満員電車に巻き込まれない時間、乗り換えが楽な手段を調べまくっていた。むしろ経済的な負担よりも朝いかに貴重なひと時を送れるかの方が大事だったからです。

一方、鉄道供給サイドでは、車両の高速化及び乗り心地の改善、ICカード利用による改札乗り換え環境の改善、エスカレーターやエレベーターの設置等のバリアフリー対策などハード面のインフラ整備が進められている。また、インターネット及びモバイル端末を通じた乗り換え検索サービスの拡充や鉄道運行情報の提供、女性専用車両の運行等のソフト面の施策も広がってきている。このような施策を通じて、移動に関する適切な選択により利用者が被るトータルの移動負荷を低減する余地は増加していると考えられる。

ここにソフト面とハード面が具体的に書かれていました。女性専用車両ってソフト面なんですね。

もっとも、主要路線の混雑度はピークアウトを示しているものの、 車両やルートの違いによって社内混雑にも大きなばらつきがみられるなど利用者の選択は大きく偏っている状況だ。また、時差出勤やサテライト・オフィス等のソフト面の取り組みも限定的に止まっており、通勤事情を大幅に改善するような変化は見られない。

 私の研究内容に似たソフト面の取り組みも書かれていました。やはり時差出勤やサテライトオフィスのような取り組みは限定的でまだまだ成長段階だということでしょうか。たしかにこれらの企業の働き方改革が実践されているにも関わらずあの満員さってことは導入前もっとひどかったのか、、それともほんの数パーしか導入されてないってことか。

このようにストレス解消の取り組みが活発化せず、選択による偏りの是正もなされないのは、移動に関して合理的な判断をするための十分な情報が利用者に伝わっていないこと。すなわち供給サイドと需要サイドにおける「情報の非対称性」に 原因がある。

この考え方はなかった。つまり利用者がどの時間帯でどのルートが混雑しているか把握できていないことが理由だと述べている。果たしてそうなのか?私は寝坊してしまったときとか”しょうがなく”満員電車につっこむこともある。朝時間に余裕がなく、手間をとるのも面倒な人はしょうがなく乗っている場合もあるのではないか?

 

3.次世代の経済活動を支えるいんふらとしての鉄道の役割の変化

我が国において労働者の移動を担う公共交通システムは、戦後、大量の労働者の移動を低コストで実現することを通じて、労働や資本のインプットの増大という境内で経済成長を支えてきた。しかしながら日本が持続的な経済成長を遂げていくために新技術の発明や新たなサービスの展開など「イノベーション」を促進してTFP(Total Factor Productivity:全要素生産性) を高め、労働者の減少によるアウトプットの減少をカバーしていくアプローチが必要である

 単なる人の移動ツールだけではなくTFPを上昇させること、つまりインプットの増大→アウトプットの減少をカバーという公共交通システムのビジネスモデルの転換が求められていることが分かります。具体的には先ほど述べた通りハードとソフトの両面で高速度で正確な移動の実現を維持しつつ、利用者の負荷を低減していくということが必要になる。

移動負荷を低減するための有効性検証には、公共交通機関を利用した日々の通勤が労働者に与える影響を解明し、影響を緩和するための施策を定量的に比較検討していくことが欠かせないが、アンケート調査などの意識調査による方法が一般的であり、回答者の主観等に左右されない客観的・定量的な測定手法は十分に確立されていない。まず第一にストレスを定量的に測定し、分析するフレームワークを確立することが鉄道の役割の変化を促進する一助にもなると考えられる

よく調査の方法としてはアンケート等が一般的で確かにこれは回答者の偏見や主観的要素が強い。それらも必要であるが、より正確に実証的な方法が必要であり、それが定量的に比較検討をすることだという。科学的に証明しようってことですね。とても素晴らしいと思います。

 

方法論

1.ストレス計測・指標化の手法の開発

計測・ストレス指標化の手法については生理心理学の研究のなかから体表面心電波形を計測し、解析する手法を採用。これは安価で測定も比較的容易かつこの手法も複数存在しているので将来的にストレス計測の定量化手法の応用分野を広めていくことに展望し、汎用性の高い指標を開発する本研究の目的と合致している。

ということで実験方法がここで出てきました。ここから一気に理系というか医学的分野内容がガンガン入ってきます。この心電波形を利用するのはとても効果的であることが述べられています。

本研究は電車による移動に伴い利用者が被るストレスについて

①ストレスの瞬発的な強度を示す指標を開発・提示

②ISO(国際標準化機構)が想定した乗り物酔いの評価指標であるMSDV(Motion Sickness Dose Value)の考え方を応用し一定期間/区間の乗車によって利用者が被るストレスの総量を定量的に示す指標を開発・提示

 MSDVってのを使うっぽいけど乗り物酔い…?電車で酔うのなんてめったになくないか…?開発段階ということか。

2.ストレス指標の有効性検証

鉄道通勤時のストレス要因(ストレッサー)には、移動時間や社内の乗車環境のほか、駅までの移動時におけるイベント、社内での人と接触等の突発的な事象など様々なものが考えられる。しかし、それらは個人差があり特定の利用者の固有イベントであるので、平均であれば継続時間の長いストレッサーの影響の範囲内に収束することが考えられる。 本研究では「混雑度」「乗車形態」「騒音」のストレッサーに焦点を当てる。理由は以下の通りだ。

  • 主なストレス要因としてアンケート調査等一般的に想定されており、
  • ストレッサーの継続時間が少なくとも5分、10分という単位で比較的長く
  • ストレッサーの大きさについて定量的な計測が可能である

最大のストレッサーと想定する「混雑率」が運行区間や運航形態によって大きく変動する特徴があり、懸賞に適したデータを得やすい「田園都市線半蔵門線溝の口→大手町)」を研究対象とする。

確かに乗車前にホームにゲロがあるのを見たときはそれが私にとってのストレッサーだ。 だがそれは継続的にあるわけではない。長くても10秒くらいだ。そしてより多くの人が被る一般的なストレッサーに注目したわけだ。にしても田園都市線半蔵門線もめったに利用しないから全然わからない。日本一混むのは東西線だぞ…東西線でもやってくれ…被験者がかわいそうになるか…。

 学生が被験者となって測定区間の電車に乗車し、携帯型心電図計を用いて計測し、基本データとして活用する。

  • ストレス指標の有効性については混雑度が高まればストレスが増加する
  • 騒音が大きいとストレスが増加する

というように一般に期待されるストレス発現の特徴との論理的整合性を検証することにより有効性を検証する

混雑度はわかるけど騒音てまずあります?都内の電車で。ガタンゴトンて音にストレス感じたことはないな…。キキーー!みたいなあのたまになる耳に悪い音のこと?

3.指標の応用研究

研究対象

  1. 田園都市線半蔵門線溝の口→大手町)
  2. 西武新宿線(西新宿→西武立川
  3. 東部伊勢崎線(せんげん台→北千住)
  4. JR宇都宮線(白岡→赤羽)
  5. 京王線・京王(南大沢→新宿)

結局東西線は外されてしまった。ほとんど乗ったことないやつだからどのくらい混むのか知らんな。ほんとに混んでいるのか?ほんとに満員なのか?満員電車の定義は人によって違うと思うけど。

研究内容

  1. 田園都市線半蔵門線溝の口→大手町):混雑率の変動、混雑率の異なる休校と各停の車両への乗車によるストレス発現状況の違い等分析
  2. 西武新宿線(西新宿→西武立川)、東部伊勢崎線(せんげん台→北千住)、JR宇都宮線(白岡→赤羽):電車の駆動方式に起因する「騒音」の違い
  3. 京王線・京王(南大沢→新宿):女性の被験者が女性専用車両に乗車した場合、およびノイズキャンセリングシステムを利用した場合のストレス軽減効果について定量的に分析
3つ目は自分次第である程度コントロールできるストレス対策にもなるのでより興味深かったですね。2つ目の電車たちそんな騒音あるのか…

本研究の貢献

1.ストレス研究分野

ストレス研究の歴史は長く、ストレス研究の発祥地である欧米を中心に複数のアプローチによる研究が発展している。しかし臨床心理によって発展した経緯から既往研究の多くはストレスを受けた生体の反応に焦点を置いたものが多い。特に交通分野において自動車利用によるストレスに関する研究と比べて、鉄道のストレスに関する定量的な研究は少ない。主要国のメディアが通勤ストレスの問題を再三取り上げる一方で、定量的なストレスの研究が少ない最大の原因はストレスを定量的に把握する仕組みが存在せず、発展途上であることが考えられる。本研究においてストレス指標化の手法が一般化すれば応用研究等への期待されるほか、ストレッサーの地好くや生体に及ぼす影響等について正しい認識が広まり、様々なストレス軽減の自発的な取り組みが促進される可能性がある。

 

 つまり、この研究はやりがいがあり、社会への貢献度が高いことを示している。加えてストレスの研究ってどのくらい進んでいるのかここで先行研究について明らかにされている部分とされていない部分が述べられている。確かに通勤ストレスストレス言われてるわりにその具体性はあまり分かっていない気もする。さらに交通機関以外の事業においても利用できそうだ。

2.都市部の交通インフラ整備のパラダイム

これは先ほど述べたことと類似しており、需要サイドと供給サイドで「情報の非対称性が」あり、利用者の「選択」が歪められているという可能性があるというのだ。

地域独占的な鉄道市場の特性に鑑みれば、利用者が評価した鉄道サービスの現状が、必ずしも利用の選択に直結しているとは言い難い状況にある*1

 もしかしたらいま私たちが当たり前に利用している通勤用の移動経路は一番最適な選択ではないのかもしれないのだ。それがちゃんと知らされておらず情報の非対称性が起き、需要の集中が解消されていない。

そして人口動態の変化により女性や高齢者のためにストレスなく利用できるソフト主体へと転換することが求められているのは言うまでもない。

3.次世代鉄道サービスの方向性を示唆

自動運転の技術など次世代の方向性が明らかになってきた自動車と比較して、鉄道の方向性は不明瞭な部分が多い。本研究ではストレス指標の手法を用いて各ルートのストレス情報を把握し、発信していくことが需要予測における交通機関選択モデル等の精緻化やストレス軽減施策の効果検証、需要の分散・平準化に貢献すると期待する。加えて日本のみならず高齢化社会を迎える国にとって鉄道における弱者対応を先駆的に進めていくことは国際貢献の意味でも意義が大きい。

現在、ストレッサーに関する一部の情報や指標(混雑度や移動の時間、移動にかかる労力、コスト)は公開されているが、本研究において提示するストレス指標が加われば利用者個人というミクロレベルのみならず通勤に伴うストレスが経済や社会に及ぼす影響等、マクロの視点での研究への応用に貢献することが期待される。

 これは応用的な内容でこの研究が利用できるよってことですね。国際貢献までいくのはすごい。他国も満員電車酷いところありますもんね。

4.幅広い分野への応用可能性

経済の成熟化やサービス産業の比重の高まりに伴い、利用者の負荷軽減や快適性がサービス向上の主眼となっている分野は鉄道交通分野だけでなく、製造、流通、飲食、金融分野など民間部門のみならず、公共サービスに至るまであらゆる分野において様々な起票や組織が凌ぎを削っている。

これらの企業や組織が活用しているのは利用者へのアンケート調査や専門の調査員による定性的な調査などであり、調査対象者が限定されることや調査員の主観が入りこむこと等によるデータ自体の限界が存在するほか施策を打ち出すことができても効果検証を実施することが困難という問題が存在する。 

 これは先ほどと同様、利用者の求められるニーズが変わってきているということと、アンケートなどの定性的な調査の批判が少し含まれています。より正確な定量的研究が必要だよと。

一方、交通分野においては、乗り心地の向上のなどで加速度等の定量的なデータを活用する研究や取り組みが進められサービス向上のノウハウが蓄積されている。現在取り扱われている定量的データは車両特性や車内環境など供給サイド主体のデータに限定されるが、本研究が提示する利用者主体のストレスに関するデータが加わることにより、利用者の満足度向上のノウハウの蓄積が期待される。このノウハウが幅広い分野に貢献することが期待される。

定量的なデータは鉄道の供給サイドで行われていたからこの研究による利用者主体の定量的データが加わればすばらしいもんになると。

 

2章 首都圏の通勤交通とストレス

首都圏の通勤交通とインフラ整備上の課題

-求められるインフラ整備のパラダイムシフト-

首都圏では製造業への依存度が低下、知識集約的なサービス業の比率が上昇する形での経済構造の変化が進展している。

その中で、都市部の再開発や都市部・周辺地区の宅地開発等を受けて、東京を中心とした首都圏への人口流入が持続している

いわゆる一極集中ってやつですね。みんな知ってる。ほんとに東京はどんどん魅力的になっていくから問題なんですよね。

東京では、経済や政治、教育の機能が都市部に集中する一方で、居住地域は都心から50~70㎞までが通勤・通学圏域となっており、都心と郊外で大量の人の交通が発生している。

こうした膨大な人の交通について、主要国の都市部と比較して人の移動における鉄道を中心とする公共交通の機関分担率が高いことから首都圏における鉄道ネットワークの経済的な役割の重要性は高まっている。

 郊外と都心でのドーナツ化現象でしたっけ、毎日すごい量の人の移動があることと彼らの経済活動において鉄道の果たす役割は大きい、大変依存性があるということですね。私も就活中何回も頼りにしてましたが信頼しすぎると痛い目にあいました。

鉄道整備においては主に混雑率を改善指標として一定水準まで低減させていくことを目指し 、ハード主体の混雑緩和策が実施されており輸送力の蚤とともに混雑率は低下してきた。ただし、輸送力の増強の伸びが鈍化していることもあり、2012年時点で15路線が目標混雑率を上回った状況にある。

どっちやねんって思ったけど、徐々に混雑率は低下しているがまだまだ目標は達成できていないということですね。ちなみに運輸政策審議会では平均混雑率を150%、すべての区間のそれぞれの混雑率を180%以内とすることを示していますが難しいのか、今200%とかありますもんね。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、我が国の人口は2010年の1億2千8百万人をピークに減少に転じており、2015年以降は、2040年に向けて▲16.2%減少することが予想されており、東京においても将来的に人口が減少していくことは避けられない。東京都の「東京の自治の在り方研究会」の資料によれば「東京の人口も2020年の役1335万人をピークに加速度的に減少し、2070年には1000万を割り込み、2100年にはピーク時の半数強となる713万人まで減少すると推測される」と予測されている。

 一極集中の情報がさっきまで述べられていたのに将来的には東京の人口減少が進だと!?と衝撃を受けました。しかも来年から減少が進むのか。それだったら満員電車も自然に解消されていくのでは。

また、都内の高齢者人口は2010年から2050年までの40年間で約6割増加する。 2050年には高齢者数のピークとなり、約4割が65歳以上という時代を迎える。このように利用者の属性も大きく変化していくことが想定される。

つまり東京都内は人口は減るが高齢者の割合が増加していくということですね。今都内は高齢者よりも若者が多いイメージなので想像できないですね、私が年を取ったらあんなところ住みたいとは思わないですけど(笑)。

平成12年8月1日付運輸政策審議会答申19号では大都市圏鉄道については、通勤・通学混雑の緩和にあたって、これまでのような最混雑時間帯における主要区間の平均値に基づくのみならず、すべての区間のそれぞれの混雑の実態や混雑時間の長さにも配慮することにおり、快適な通勤・通学輸送や高齢者等の移動性役者にもやさしい交通が実現できるような整備水準を常態的に備えることが必要と指摘している。

 やさしい交通。良い言葉です。鉄道も高齢者向けに転換していく必要があると。

長期的に全体としての交通量が提言していく点に鑑みれば、インフラ整備における方向転換はハードからソフトの比重を高めていく形をとらざるを得ない。その具体的な施策としては、混雑回避の具体的なメリットを啓蒙しつつ、混雑状況や渋滞箇所等、移動の制約や利用者へのストレスの増加要因となる情報を個々の利用者にリアルタイムに提供すること等、オフピーク通勤等の「需要分散」を促進する方法が第一の選択肢となろう。

 オフピーク通勤、つまりテレワークも需要分散に寄与できますね。そのために混雑回避のメリットを大げさに提示することやストレスの要因等を細かく利用者に伝えることなど情報を提供をすることが大事だと。需要分散のために個々人におけるストレスの提示をする意義は大きいことが分かります。

 

交通機関の利用によるストレス研究の動向

1.ストレス理論

ストレス理論は「物理学や工学の領域で用いられていた「ストレス」という概念を医学の領域に導入」し、生体にストレッサーが加わった場合、その因子の種類に拘わりなく一定の身体的反応がみられるという「漸進的脳症候群」を提唱したセリエ(Hans Selye)の「ストレス学説」を基礎に発達した。

ここから割と医学?心理学?哲学?的な要素が入ってきて面白くなります。ストレスは物理学や工学から来てたんですね。確かに物理の授業などでストレスについて学んだ気がする。

ストレス学説ではストレスのメカニズムについて、ストレッサーによる主体への(局所的)負荷が持続した場合、当該負荷に対する脳下垂体や副腎等への内分泌調節機関の反応によって

①警告反応期

②抵抗期

③疲憊期

という3相期を通じて、生体のストレス反応が展開する。本来、環境にて機能していくために生体に備わっているものであるが、様々な病気を誘発する原因についてはストレッサーが過大であったり、生体側の反応が不十分もしくは過剰であった場合に心身の健康障害を招くとされる。「全員適応症候群」を発症するというストレス理論に基づけば、多くの利用者に不快感を及ぼす通勤通学電車内の環境も典型的なストレッサーの一つと考えられる。

ちゃんとストレス理論に基づいて、論理的に満員電車がストレスであるということを述べています。生体側の反応が不十分でも病気になるとはちょっとよくわからないけど。

ストレス反応の発現プロセスについて

環境有害因子(ストレッサー)からの刺激

                ↓

刺激や適応能力の評価(アプレイザル)

              ↓                                   ↓

  ストレスの自覚           ポジティブな評価

              ↓

            ネガティブな情動反応

              ↓

            生理的・行動的反応

              ↓                       ↓

身体疾患の危険増大   精神疾患の危険増大

*2

生体はストレッサーからの刺激を受け、その刺激の情報が感覚器を通じて大脳中枢に伝わると、先ず、その刺激が脅威を引き起こすものであるか、また対処が十分可能か、否かについて自己評価(アプレイザル)を行う。そこでストレッサーによる刺激が有害と判断された場合、個体はストレッサーによる刺激を自覚し、ネガティブな叙同反応を行うとともに、特定の生理的・行動的反応を示す。

ストレスは悪いものととらえがちですが、アプレイザルによって自分で対処できるか否か評価する仕組みになっているみたいです。人間の体はすごいですね。そこでポジティブな評価にいけばいいのですが、ネガティブな情動反応を起こしてもまたアプレイザルに戻ることもあるそうです。

ストレス反応に関する研究は、

①生体が置かれる様々な環境有害因子であるストレッサーに焦点を当てる「環境的アプローチ」

②ストレッサーからの刺激を主観的に評価する「アプレイザイル」過程に焦点を当てる「心理的アプローチ」

③ストレッサーによる身体的・精神的刺激に対する生理的システムの活性に焦点を当てた「生物学的アプローチ」

という3種類に分類され、各々の研究が発達している。

ストレスの分析方法は大きく3つに分けられるということでこの論文ではどこに焦点を当てていくのか。ということですね。

2.通勤ストレスに関する研究の流れ

ストレッサー研究における第一のアプローチは「一般的な生活環境に対する生体の反応形態の一つとして生体のストレス反応が誘発される」との家庭に基づいて行われてきた研究であり、通勤時における大気汚染、快適性の欠如、騒音、混雑などの多様なストレッサーの相乗作用に関する研究が実施されてきた*3

大気汚染もたしかに関連付きそうですね。都会は空気悪いですし、通勤途中に緑があるだけですがすがしい気分になれる。

第二のアプローチは通勤時のストレス反応をストレッサーに対する反応形態の一つと仮定し、その発現形態は「主体によって異なる」との立場にある。すなわち「ストレスへの対応に必要なリソースが足りない」と認知する主体程、ストレッサーによる影響を受け易いという考え方である。この研究ではストレス反応の発現過程において、具体的状況(環境)と外生的要因との相互作用を仮定した研究が実施されている。

これ理解するのに一苦労したんですが単に、ストレスの対応力には個人差があり、その身体の反応のプロセスに注目していた研究だということであってますか。

第三のアプローチは第一及び第二の発展形であり、ストレス反応の領域間移転に関する研究である。領域間移転とは通勤時という特定領域におけるストレスに他の領域におけるストレスが作用しているという仮定であり、その存在が一部証明された。

第三難しいしこの著者も深堀してないからソッとしておこう。

3.通勤ストレッサー

1)通勤抵抗

ここでいう「抵抗」とは、対象となる行動またはゴール到達に対する行動抑制因子と定義され、ゴールまでの障害となるあらゆる抵抗によって構成されるという考え方である。Novacoらはとりわけ「通勤」という行動そのものがストレスを発現させる大きな要因だと考察した。

この考え方に基づき、潜在的なストレッサーとして

①通勤時の様々な段階からなる関数として捉える

②混雑に焦点を当てる

③職場に向かう通勤経路の複雑さに焦点を当てる

など。

 通勤そのものがストレス、わかる。仕事中とか働いてみたらそこまで苦ではないのに到着するまでの過程が苦なのすごいわかる。関数とか変数とか出てきて???ってなってる。

2)騒音

職場や空港等を含めた様々な場面を対象に研究が進められており、各々の状況におけるストレス反応の仕組みやいくつかの対処法が提示されている。Broadbentは騒音が一種の興奮状態を誘発し、主体の集中力を低下させることを示した。

一方、Cohen及びCohen and Weomsteinは騒音による集中力低下の程度が、刺激の強さのみならず斯かる環境の「主体にとっての意味」や「状況を制御する余地の大きさ」によって異なると指摘。 また、持続する騒音については主体の「慣れ」によってネガティブな反応が低減していく効果がみられる一方、通勤において特徴的な「断続的」な騒音については「学習性無力感」*4、「慢性疲労症候群*5当の作用によるネガティブな反応が持続するとしている。

さらに、騒音が中断した後も、そのあとの主体の労働に悪影響を与える可能性が指摘されている。例えばGlass and Singerの調査では58dbという小さな騒音でも、予測不可能な騒音が持続した後にはパフォーマンスが低下したとされている。同様にCohen and Weinstein(1982,p54)は他人の要求に対する無関心の増幅を上げており、Koslowskyらはその他の可能性として集中力の低下、その他のドライバーへの関心や配慮の低減を指摘している。「制御手段が存在する」との認識を持つだけで当該刺激による影響が著しく低減するのである。

また、Henry and Meehan (1981)はストレッサーによる刺激の大きさは「代替行動の余地」と大きくかかわっており、「抵抗」または「逃避」いずれも不可能な場合、ストレス反応が誘発される可能性が高いとしている。代替交通手段や交通経路等、選択肢が少ない我が国の鉄道により通勤する主体はストレッサーの作用による悪影響を諸外国の主体よりも被りやすい可能性が想定される。

今回新たな発見があったので引用長めにしました。騒音てそんな気になるものでもなかったけど、自分自身でコントロールできる騒音に関してはストレスどころかもはや好影響を与えるというのは驚きでした。ただコントロールできない騒音に対しては体に悪影響を与えるということで、これは確かに、家の近くの工事の音とかも嫌になりますもん。いかに集中力を保ち、身体の悪いストレスの影響を防ぐか、耳栓の大事さが分かりました。電車の中もいつの間にかそういう騒音でストレスをかかえているのかもしれない。いや、騒音というよりはあの自分でコントロールできない人と人との密着度から抜け出せないという息苦しさに対してのストレスの方がおおきいのでは?電車内の騒音だったらイヤホンとかでどうにかなるし。あの満員電車抜けた後のパフォーマンス力が下がるのももっともで、面接もうまくいかなかったな。

3)混雑

混雑が生体に影響をもたらすメカニズムについてKosloeskyらは「他人の存在が、個人の目的の達成に対して障害となるか否か」という点で 混雑がネガティブな影響をもたらすかどうかについて結果が分かれるとしている。混雑度が高まり、個々の利用者が目指す

①定刻までに会社に到着する

②新聞や書籍を読む

等の目的達成に対して他人の存在が障害となると、不快感を感じ、ストレス反応が発現すると考えられる。また、列に割り込む、他人の乗車を妨害する行為、慣習的に受け入れられたルールを他人が破った場合もいらいらが募るとした。刺激の大きさではなく当該刺激が「不必要」なもので且つ「慢性的」「反復的」かどうかがポイントとなる。混雑の不効用は統制余地の欠如や不確実性を伴って生じる場合が多い。さらにKarlin,Rosen,Epstein and Woolfolk(1979)が見出した「混雑の体験によるネガティブな影響が実験終了後も持続する」という特徴があげられる。通勤混雑を経験することによる不効用の影響が、職場におけるパフォーマンスへも影響wお及ぼす可能性が実験によって明らかになった。

さっき私が述べたこと書いてあった。やはり他人によって自分の目的等をコントロール出来なくなるとストレスがたまる。まさに電車の中の暗黙のルールを守らない人を見るとさらにストレスがたまる。電車の中でご飯食べているクチャラーやワキガと密着したり空席ばかりなのに自分の隣に乗ってくる明らかな痴漢が表れると気分が阻害されるのは言うまでもない。

4)その他のストレッサー

温度にかかわるストレス刺激も制御余地が存在しない場合に生体に様々な影響を及ぼすものと推測されている。

生体における体温の維持機能は一時的に37度までは自己調節機能が働くとされているがそれを超えた場合、心臓への機能障害、血圧上昇、筋肉硬直等肉体的障害がもたらされる可能性があると指摘されている*6。また電車やバスの混雑に伴う湿度が上昇するケースでは温度以上に大きな影響を及ぼすケースも存在すると考えられる。例えば湿度が80%の30℃の体感温度は40℃に相当すると言われている。

たしかに、温度だけならまだマシだけど湿気は敵だ。体調不良が起きるのは湿気のせいだと思うくらい。湿気なんてますますコントロール不可能だ。

 

4.認知過程を考慮したストレッサーに関する研究

Koslowskyらは個人の認知を踏まえた主観的な変数を用いる必要性を提唱した。研究で用いられた4つの変数は

①夕方の通勤混雑

②移動に対する嫌悪度(回避度)

③朝の通勤混雑

④陸上道路の障害物

である。

一方、実際の通勤に関する研究結果に一貫性がないことに対応してKluger(1990)は通勤手段の「平均値」ではなく「分散や標準偏差」を考慮することにより、客観的要素と主観的要素の双方を伏せ持った手法の活用を提案した。例えば、主体に影響を及ぼさない場合でも、移動時間の標準偏差が大きくなるほどコントロールの欠如を認知するため、主体のストレスに繋がり易いという主張である。つまり通勤時間の長短は主体の認知によって決定されるということである。

 うーむ。数学っぽくなってきて難しい。平均値とか分散とか標準偏差とか。でも主体の認知が結構ストレスにつながるってことは把握。

斯かる「認知」過程の重要性に注目したストレス研究の事例として労働におけるストレス反応の発症の大きさが自由裁量の多寡と関連していることを提示したThompson(1981)の研究を指摘できる。すなわち、利用可能な行動手段が限定されていればいる程、利用者の置かれた環境が大きなストレス刺激となる。一定の時刻までにオフィスに到着することが求められている通勤者は代替ルートが存在せず、環境をコントロールできる余地が小さいことを認知した時点から不快感を感じ始め、通勤ストレッサーによる影響を受け始め、そのような刺激のコントロールが不可能と感じる患者ほどやる気をなくしたり陰鬱な状態になるとしてきしこれを学習性無力症候群と呼んだ。

一方、認知の結果が個人で異なっている点については「調整要素」の機能によって説明できる。各個人が対象となるイベントをどの程度脅威的で、危害を及ぼし、骨が折れるとみるかによって調整される。

応用研究においては急性ストレッサーと慢性ストレッサーに分類する研究が存在し、慢性のストレッサーの方が相対的に大きな影響を通勤交通の利用者に与えると推測される。

やはり通勤だけでなく労働においても自分で選択肢が多くコントロール可能な範囲が広い方がストレスを感じにくいそうです。フリーランスとか経営者とかはこういう点でストレス感じにくいと思います。労働者は同じ時間帯でみんなと同じように働かなくてはいけない。そういう面でテレワークという新たな労働手段が増えることでストレスが軽減されるのではと。特に私のように毎日8時間以上週に5日会社に勤務する必要性を感じられない人間にとっては認知の影響が強いと思います。

5.ストレス刺激に曝された生体のパフォーマンスへの影響

毎日、同一ルートで通勤・通学している我が国の多くの社会人や学生は毎日同様のストレッサーによる刺激に持続的・断続的に曝されており、受け続けるとストレス反応が発症し、勤労や学習におけるパフォーマンスの低下等の影響がもたらされる。Schaubroeck and Ganster(1993)は、不快な刺激またはストレッサーに継続的に曝された場合、斯かる刺激の蓄積が個体に有害な影響をもたらすことを指摘した。具体的には刺激に対する肉体的な適応動作がなくなり、パフォーマンスの低下という形で発現する。

毎日継続的にあの満員電車に乗っていたらさすがにストレスも蓄積するんですね。蓄積した結果後から痛い目にあうことになるかもしれないと。

一方、ストレスによる刺激が長期的に継続すると、場合によっては肉体的・精神的な極度の疲労感が発現する等により、バーンアウトの原因となる。バーンアウトの肉体的な徴候として頭痛、吐き気、背痛、不眠、食事習慣の変調があげられる。情緒・精神的影響として抑うつ、絶望、神経障害、他人に対する態度の悪化、自尊心の低下が指摘されている。Baron(1986)はバーンアウトの帰結としてドロップアウトが発症し、個人や組織に悪影響が及ぶこととなると指摘。

満員電車によるストレスはこんなに多くの害でしかないのに、それでも人々は満員電車に乗らざるをえない状況になっています。こんなのおかしいと思うしもっと改善の余地はあるはず。肉体的精神的に弱い、弱者は特に危険だ。自分の身体だけでなく周りにも多大なる迷惑をかける。これでは仕事に対するパフォーマンスも落ちてしまう。

6.通勤ストレス・プロセスの研究

1)環境的アプローチ

ストレッサーに焦点を当てて、研究を行う。ストレスの大きいライフイベントと疾患との関係が解明されてきた。個体への刺激の大きさに基づく主要なライフ・イベントの重み付けの取り組みに着手して経験目録(SRE)SREのフレームワークを完成した。そのあと、SREは修正がなされ現在も一般的に使用されている社会的再適応評価尺度(SRRS)が完成した。

現在

⒜ストレッサーが引き起こす変化の大きさ

⒝ストレッサーが損失もしくは損失の脅威を被験者にもたらす程度

⒞ストレッサーやその経穴手段をコントロールできる程度

の解明を主眼としている点で研究されている。

現在活用されているアプローチは

⒜SRRS等のライフイベント・チェックリスト砲

⒝インタビュー

⒞日記や質問票への回答による自己報告方式

⒟観察法

⒠直接測定法

の5つでに大別可能で⒜~⒟については主観的判断によるゆがみが存在し、イベントの持続期間の長短が考慮されていない⒜、熟練した専門家が必要⒝、等の問題が指摘され、⒠は一部のストレッサーは技術的に測定が困難。

問題点で終わってる。ここから研究方法についてですね。また一層難しくなりそう。すでに分かりにくい。

2)心理学的アプローチ

ストレス反応はアプレイザルという主観的な評価過程というフィルターを通して生じる。

①個人の安寧という観点から環境刺激因子を評価・分類する一次的アプレイザル

②個人の状況対応能力を考慮する二次的アプレイザル

に区別されて認識された。

①一次的アプレイザルにおいて環境刺激因子を

⒜無関係

⒝良好

⒞ストレスフル

に分類したうえで、②二次的アプレイザルにおいてどのような対処が可能か、効果を期待できるか、効果が期待できる対処は幾つあるか等の観点から検討が加えられ一次的アプレイザルにフィードバックが加えられるとされる。これらの2つのアプレイザル過程による相互作用が反復することによってストレスの程度が調整されると考えられている。研究に用いられる手法は

①認知ストレス尺度等の共通尺度を使用した評価

②環境ストレッサーの評価で用いられる一部のライフ・イベント測定法の応用

③インタビュー等があるが主観性による歪みの問題や共通尺度にかかわる汎用性の問題等

が指摘される。

 これも問題ありで締めくくられた。ストレス手法が具体的に想像がつかない。

 

 

 

*1:平成12年8月1日運輸政策審議会答申大19号「中朝的な鉄道整備の基本方針及び哲夫づ整備の円滑化方策について」

*2:cohen 他 1999 p14

*3:Koslowsky,et.al(1995),p38

*4:learned helplessness イヌを用いた電気ショックの条件つけに関する実験で苦痛な刺激そのもではなく、自分の反応が苦痛な刺激をコントロールできないことを学習した結果引き起こされるものと指摘し、うつ病の疾病モデルの根拠となった。予想不可能な断続的な騒音は個体に悪影響を及ぼす一方、制御可能な騒音は、反対に個体に好影響を与えることが判明。

*5:cognitive fatigue

*6:Bell &Greene,1982